ある日。

誕生日を迎えた。39歳になった。おめでとう、私。私は若干ゆがんだ価値観を持っているので、誕生日なんて死に向かっているのに嬉しくないなと、思っていた。何よりも当たり前に出てくる生クリームに覆われた苺のショートケーキ。あれは不幸の象徴のように思っていた。けれども、なぜか今年は嬉しい。純粋に、おめでとうと思えた。夫が、マルジェラの香水をくれた。私が欲しかったやつとは違う種類だったけれども、いかにも夫が好きそうなフェミニンな香りをくれた。ありがとう。

朝、昨夜のカニ鍋の残りで雑炊を食べた。幸せ。雑炊までおいしいのか、と驚いた。


誕生日には、大好きな資生堂パーラー本店で食事をしたかった。緊急事態宣言のため、早々に諦めた。イワタコーヒーで誕生日だけ、イチゴパフェを食べることにしている。でっかいパフェだ。甘党でない私は、だいたいこの手のパフェは最初の何口かで根負けするのだが、ここのは食べきれるのだ。そのイチゴパフェを食べるために、店を訪れると、広い店内で3席しかないテラス席、しかも中庭側に通された。夫が「誕生日に、これだけの席があって、テラス席に座れる君の引きの強さに驚いた」と言った。気にしていなかったけれども、思い返してみたら、誕生日は毎年この席だなと思った。そこで、中庭を眺めながら、イチゴパフェを食べて、江國香織の『流しのしたの骨』を読んだ。これは、2月生まれのこと子ちゃんの物語で、その2月の誕生日のところを繰り返し読むのが好き。こと子ちゃんおめでとう。


夜、夫が予約してくれたお店でバースデーディナーをいただく。普段なら予約の取れないイタリアンだ。こんな時期だからこそ予約が取れたのだと思う。シェフ自らが、料理し、サーブし、接客もする。もちろんスタッフは他にも何人もいるのだが、とにかくシェフがてんやわんやでごたごたしながらやっているのが面白い。きっと好き嫌いはっきり分かれると思う。私は好きな方だ。シェフが横柄にアシスタントたちに、あれしろこれしろと言いながら、料理を仕上げていく。カウンターで仕上げるその料理の在り様。好きだと思った。客に媚びるでもなく、ただただ料理への情熱を抑えきれないほどに溢れてしまっている少年のようなそのシェフを好きだと思った。実際に口コミには、悪評も多かった。料理は最高なのに、シェフのその様子に対する悪評だ。きっとこのシェフはそんなこと気にしないんだろうなと思った。まず最初にの頼んだドリンクのオーガニックのレモンソーダがびっくりするほどのうまさだった。昔、どこかの社長が言っていた。最初に出てくるドリンクが美味しい店は、何を食べても間違いのない店だと。私はそのことを思い出した。期待で胸が膨らむとはこのことか。前菜のセロリとジャガイモのハーブ和えも、こんなにおいしいセロリは初めてだ。もう一つの前菜もどれも美味しかった。パスタは二種。そのうちの筒状のパスタトマトソースとチーズのものなんて、こんなにもシンプルなのにおいしいなんて、驚きしかない。メインの和牛のローストビーフもビジュアルもさることながらおいしい。何よりも、なんと切れ味の良いナイフ。肉厚のローストビーフを一回でスパッと切れるナイフ。すごい。その後ろで、せっせと生ハムを切る機械を丹念に磨くシェフ。磨き終わって、テーブルに置くときに、四隅に布の端切れをさっとポケットから出しておいた。こういうところ、職人だなと思った。


帰り道に、スタバに立ち寄る。誕生日にスタバがオープンするなんて、なんか嬉しい。記念に行きたかった。なんだかんだ今日もいい一日だった。

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