ある日。

朝、卵かけご飯と豆腐とさやえんどうの味噌汁。卵かけご飯が、前の日の番から食べたかった。卵を黄身と卵白に分け、黄身だけを白米のセンターにそっとのせる。周りのごはんの部分にしょうゆをちょっとかけ、ごま油をたらし、鰹節をまきちらして完成。おいしかった。卵は得意ではないけれど、時たま卵が無性に食べたくなる。


仕事に取り組む。


昼、お弁当。春菊の牛肉巻き、厚揚げのにたもの、ブロッコリーのからし和え、ごはんと昆布。地味弁当万歳。お弁当だと本当に楽ちんだ。三回料理をしなくていいし、チンすればいいから、夫も自由に食べれるし、私も気を遣わなくて済む。思えば、この一年くらい、私は狂ったように家事に励んでいたような気がする。家事をしすぎていた。それが、いよいよ切羽詰まるほどどうにもならなくなったので、お昼は料理をしないことを決めた。それぞれが自由に好きな時に食べることにした。らくちんらくちん。長男長女の私たち夫婦はお互いに気を遣いすぎるので、これくらいがちょうどいいのかもしれない。


引き続き、仕事、捗る。

仕事は、やってもやってもきりがない。だんだん終わりの見えない仕事に腹が立ってきたので、焼きそばを作る。夕飯だ。たまねぎ、ざくざく。にんじん、うすくうすくぺらぺらに。(ニンジンは夫は苦手のため極力薄くニンジン本来の味を打ち消す)ざく切りのキャベツ。丁寧にひげ根をとったもやし、そして、手で引きちぎった豚肉の薄切りでジュージュー焼きそばを作る。次の日の、お弁当の分も作るので、三人前を作った。野菜が多すぎて、麺が入るか心配だったが、なんとかできた。あまりにもおいしそうだったので、夕飯は8時なのに、夫に先に食べる旨を伝えて、先に食べた。こんなにおいしいのに、夫は冷めた焼きそばを食べるのかと思うと悲しかった。悲しかった。と、しつこく夫に伝える。夫、キレる。切れた夫に向かって「夜に、いざこざを起こすのはよくないよ。もっと穏やかになりなよ」と、なだめる。自分勝手な妻である。食器を洗い終わっても夫はずっとぐちぐち言っていたので、しつこいねぇと思った。


ブッククラブの課題図書『阿佐ヶ谷姉妹ののほほん暮らし』読了。阿佐ヶ谷姉妹、正直よく存じ上げなかったけれども、赤の他人なのに一緒に暮らすなんてしんどいわ。夫婦だってしんどいのに。夫婦とはいえ、一緒に暮らすしんどさMAXなときに読んだため、大変癒された。「自分だけのシチュー」というところで、ミホさんがシチューを自分の分だけよそってきたことに対して、エリコさんが、「私だったら、持ってくるけど」と言う考え方がちがっているのかしら、とモヤモヤするところがある。これって、夫婦でもよくあることではないだろうか。「私がそうしているから、あちらにもそうしてもらえるものだと思っている所から、ものさしが狂い始めるのかも」とエリコさんは綴っている。「実際夫婦でも家族でもない2人が、たまたま生活様式を共にしているだけで、本来は個個。私がみほさんにしている事は、頼まれてやっている事でもなく、こちらがよしとしてやっている事なのだから、それを相手に勝手に求めて勝手に腹を立てたりするのは、変な話で。やってもらう事は『必須』ではなく『サービス』なのだ」と。そうなのだ。すべてはサービスなのに、必須にされると腹が立ってくるのは、きっと私ももれなくミホさまだからであろう。


森博嗣の『喜嶋先生の静かな世界』読了。とんでもない本を読んでしまった。森博嗣の自伝的小説で、営業担当者による「心が疲れたときに読むと癒される」みたいな感じの帯にやられて買った本。「大人でも夢中になって自分の好きなことをしている人がいる」という一文が本当に良かった。社会の歯車なんかじゃなくて、周りを気にすることもなくて、ただただ自分の好きな事だけに夢中になっている喜嶋先生がよかった。森博嗣の本はどれもシンプルでエレガントだ。私はそれが好きで読んでいる。理系の人にしか持っていない独特のセンスだと思っている。わかりやすくて、まどろこしい装飾はなく、内容のある言葉がシンプルに綴られているのだ。その秘訣がこの本で分かったような気がする。結末は、なんとも切ない。「不自由な生活に、喜嶋先生が我慢できるはずがないじゃないか」とある。「周囲は、余計な雑事で先生を煩わせてしまったのだ」と。どうしても無性にこの本を読みたくなったのは、きっと私も不自由さを感じていたから。追われる仕事、家事、生活。余計な雑事で、頼むから私を煩わせないで欲しいと願っていた。煩わされるほど、自由はなくなり、自分が本当にしたい事はできなくなる。この本を読んで、そうスッキリとした。この本の解説は養老孟司というのも妙にピッタリ。実は、養老孟子の講義を学生時代に受けたことがある。話しが本当に面白くて衝撃的で、記憶に残る講義だった。だから、なぜか勝手に親近感を抱き、この本がより愛おしくなった。


伊坂幸太郎『重力ピエロ』読了。「春が二階から落ちてきた」ってすごい書き出し。伊坂幸太郎の中でも、結構記憶に残っていた。ちなみに、春は、主人公の弟の名前。春は、母親が男に襲われた時に身ごもった子という衝撃的なところから始まる。けれども、この家族の父親が「春は俺の子だよ。俺の次男で、おまえの弟だ。俺たちは最強の家族だ」というところで毎回涙が止まらなくなってしまう。血の繋がりを重んじる日本で、血の繋がり方など些末なことではないかと思えてくる。「楽しそうに生きてれば、地球の重力なんてなくなる」「生きるってことはやっぱり、つらいことばっかりでさ、それでもその中でどうにか楽しみを見つけて乗り越えていくしかない」っていうところが、とてもいい。この家族は、父親も最高なのだが、美人なもまた最高なのだ。気休め」好きで、「その場限りの安心感が人を救うこともある」とたびたび言い、父親が仕事で重い屈している時には、豪勢な手料理を用意し、「人を救うのは、言葉じゃなくて、美味しい食べ物なんだよね」と言う。私はこういう女性が大好きだ。そして春も「気休めっていうのは大切なんだよ。気休めを馬鹿にするやつに限って、眉間に皺が寄っている」と言っている。気休めは大切なのだ。この本は伊坂幸太郎作品の中でも、『終末のフール』と並び結構好きな本。



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