ある日。


不調。休む。

ベッドで『傲慢と善良』を読んだ。最近、私はずっとイライラしていた。とにかく毎日怒っていた。傲慢な人が嫌だったんだと分かった。自分のことじゃなくて、人の人生ばかり見てくる人が嫌だったんだ。狭い知識と情報だけで、決めつけてくる人たちが嫌だったんだ。いつも、思う。どう思われてもいいのだけれども、人をうらやましがったり、急に手のひらを返したように人を褒め始めたり、そういう調子のいい人たちが嫌だったんだ。私はほめられれれば褒められるほど不機嫌になっていったんだ。


辻村深月の『傲慢と善良』は、まるで現代版『プライドと偏見』のようだった。この本、ものすごく好きな本で、10代の頃の多感な私を大いに支えてくれた。いや、私はこの本に影響されすぎて、私の価値観なんてもはやこれがすべての根底なのではないかと思うほど。

辻村深月の『傲慢と善良』は、さすがの辻村深月様で,善良というのがいかにも日本人にぴったりなそれだなと思った。都内と地方の結婚観の違い。いや地方と言っても、この中では群馬だが、同じ関東だってこれだけ差があるのだと痛感する。現在の婚活事情をとてもリアルに描かれていた。

真面目で善良ないい子ちゃんの主人公は、母親の言うとおりに母親の思うステータスに沿って人生を歩み、そのために母親にとらわれすぎている。一方で、その婚約者の男性は傲慢すぎるほど傲慢だった。どちらも真逆で極端。いろいろな性格があっていいのだけれども、やっぱり自分の人生に起こるあれこれを自分自身で決められない、自分の人生に何のビジョンもないというのは、自分の人生を他人にゆだねてしまっているように思えた。

それにしても、現代の婚活事情はすごかった。アプリや婚活パーティーで一瞬で相手をアリかナシか考える。それを、ピンとくる人と出会うまで続ける。苦しすぎる。でも、ピンと来るかどうかなんてわかるのだろうか。たった一瞬、すべて作られすぎて全く本音の見えないところでどうやって見つけていくのだろうか。と思っていたら、「ピンとこない、の正体は、その人が、自分につけている値段です」 「その人が無意識には自分はいくら、何点とつけた点数に 見合う相手が来なければ、人は、“ピンとこない”と言います。―私の価値はこんなに低くない。もっと高い相手でなければ、私の値段とは釣り合わない」とある。要するに自己評価ということらしい。それに、婚活のうまくいく人はこうある。「うまくいくのは、自分が欲しいものがちゃんとわかっている人です。自分の生活を今後どうしていきたいかが見えている人。ビジョンのある人」と。

「現代の日本は、目に見える身分差別はもうないですけれど、一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、“自分がない”ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代なのだと思います」

ものすごい本だった。

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