ある日。

朝、夫が検診のため一人だけごはんをたべる。肉じゃが、アスパラの肉巻き、ほうれん草の胡麻和え、ごはん。なんだか一人だけ盛りだくさん食べていて、後ろめたさでいっぱい。


それから夫は健康診断クリニックへ行き、私は銀座ウエストで考え事をしていた。30分かそれ以上並んでも、好きなところ。ぜんぜん効率とか重んじなくて、お客様に寄り添っているところが好き。コーヒーも、カフェオレも、紅茶も1,000円くらいするけれど、おかわり自由なのもよい。ケーキセットを頼むと、ケーキを持ってきてくれて、そこから好きなのを選ぶことができるのも楽しい。この日も安定のモザイクケーキとカフェオレを選ぶ。モザイクケーキは母が好きだった。たぶん10年か20年くらい前、弟と私は都内にそれぞれ住んでいて、実家に帰る際には渋谷で待ち合わせて一緒に帰っていた。母に、「帰るよ」と連絡すると、渋谷の銀座ウエストでモザイクケーキのホールを買ってくるように言われ、それを買って帰っていた。いつもあの思い出がよみがえる。弟はすでに地元に戻り、都内に住んで、一緒に遊んでいたのは1年か2年くらいだったけれど、楽しかった。


検診を終えた夫と待ち合わせして、食事をし、デパ地下でお菓子を買って帰ろうということになり、地下に行くとものすごい人で、驚いた。ホワイトデーのようだった。「混んでるね」と夫に言うと、「ホワイトデーだからね、君の好きなモノを買ってあげるよ」と夢のようなことを言ってくれた。いつも、夫は和菓子コーナーで、私は洋菓子コーナーでそれぞれ自分の好きなモノを買うことが多い。私は大好きなラメゾンドショコラのホワイトデーマカロンを買ってもらうことにした。「ここのマカロンは好きなのだが、賞味期限が翌日までしか持たないので、いつも買いあぐねていた」と言ったら、夫も「いつも青山でここのマカロンを買っていこうと思っていたのだけど、日持ちしないから買わなかったんだ」と言った。そう思っていてくれたことが嬉しかった。私が夫にはじめてバレンタインチョコを挙げたのもここだった。私が青山で働いていたころに、突然お店ができてうれしかった。毎日ショーウィンドーから見えるエクレアを横目にオフィスに向かった。夫は夫でそのころ丸の内で働いていて、丸の内にこのお店ができたことを鮮明に覚えていた。私たちにはこういう共通した思い出がなぜかある。そのたびに運命めいたことを感じてうれしくなる。


帰りに、本屋で本を4冊買って帰る。夫が、珍しく文庫を買っていたので、どうしたのかと思ったら、私の言葉が帯に乗っている本を買っていた。自分のお金で買っておきたかったんだと言った。嬉しかった。

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